YES-NO

<IN SCHOOL>

「部長、これ、どこにあるの?」
リョーマから目の前に差し出されたのは、某商店街の抽選券。
手塚は抽選会場の場所を確認する。
「家の近くにある商店街だな」
「部長の家の近く?」
「あぁ、そんなに遠くないな。しかし、どうしてこの抽選券を持ってるんだ?」
尤もな手塚の疑問に、リョーマは笑って答える。
「菜々子さんがくれた。菜々子さんも、友達から貰ったらしいけど、場所がわかんないから
知ってる人にあげたら?って」
「そうか」
「ってことで部長、手、出して」
手塚が反射的に差し出した左手に、リョーマはその抽選券を乗せる。
「部長の分ね」
「これはお前のだろう?」
「俺の分も1枚あるから。一人じゃ場所わかんないし。抽選会場まで連れていってくれるよね?」
もはやリョーマは、手塚に抽選会場につきあわせる気満々である。
期待に満ちたリョーマの表情を見ると、断る言葉は浮かばない。
「わかった。今日の帰りでもいいか?」
「うん、ありがとう、部長。楽しみにしてるっス」



<AT 抽選会場>

「ねぇ、部長、1等はペア温泉旅行だって。あれ、当ててよ」
先にリョーマがガラガラ抽選器を回したが、結果は参加賞でポッキー1箱。
わざわざ遠出までして抽選に来たというのに、参加賞で喜んでいるリョーマを手塚は不思議に思う。
「お前が参加賞だったのに、俺に1等が当たると思っているのか?」
「だって部長、くじ運良さそうじゃん」
「その根拠はどこからくるんだ?」
「なんとなく」
乾ならデータがあるとでも言いそうだなと思いながら、手塚は抽選器をまわした。

おめでとーございまーす!3等賞「YES-NO枕」で〜す!

抽選会場のコンパニオンガールが大声で3等賞を宣言し、手塚の手に大きな紙袋を渡す。
「YES-NO枕?」
「ふ〜ん、YES-NOまくら・・・ね。さすが、部長」
「越前、持って帰れ。お前から貰った抽選券だから、お前にその権利がある」
「ヤダ。部長が当てたまくらなんだから、部長のでしょ」
「しかし、俺はずっと使ってる枕があるし」
ご丁寧にも袋の中には「YES」と「NO」の文字が片面ずつに描かれたカバーの枕が二つ。
「このまくら、ペアなんだ」
「そうだな」
「じゃあ、部長に1つ。俺も1つ持って帰る。それでいい?」
「わかった。譲歩しよう」
手塚の了承を聞いて、リョーマは笑顔で続ける。
「ねぇ、部長。そのまくら、今日から使ってよね」
「どうして今日からなんだ?」
「だって、部長の気持ちがすぐに判れば、俺も嬉しいし」
リョーマの言葉の意味がわからず、思わず聞き返す。
「俺の気持ち?」
「え?部長、もしかして・・・知らないの?」
「なんのことだ?」
「そのまくら」
「枕に何かあるのか?普通の枕に見えるが」
手塚の返事からは、別に惚けている様子は見えない。
「ふ〜ん。知らないんだ。じゃあ、部長の家にお邪魔していいッスか?」
「それは構わないが、どうして俺の家に来ることになるんだ?」
「だって、そのまくらのこと知りたいんでしょ?」
得意げに見上げるリョーマに、手塚はちょっと不機嫌そうな顔で答える。
「別に教えてくれなくてもいい」
「でも紙袋なしで、そのまくら持って帰るのヤダし」
「わかった」


<IN K's ROOM>

手塚が自分の使っていた枕をYES-NO枕に置き換えたすぐ後のこと。
「大好き、国光さん」
リョーマは二人きりの時にしか呼ぶことを許されていない名前を囁く。
全開の笑顔を浮かべながら、手塚の頬に瞼にそして口唇にキスの雨を降らせる。
キスだけなら、もう数えられないほど交わしている。
今までの手塚は少しずつ高鳴る鼓動に戸惑いながらも、リョーマのキスを拒むことはなかった。
しかし、どんどん深くなっていくキスと、制服のシャツのボタンを少しずつ外し始めたリョーマに
手塚は制止の声をかける。
「や、やめろ、越前」
「ヤダ、止めない」
あろうことか、ベッドの上でリョーマは手塚に馬乗りの状態。
しかも、止めないと言うリョーマの表情は切羽詰まったものでもなく・・・むしろ笑顔。
いつもなら手塚の制止の声に従うリョーマなのに、今日は勝手が違うらしい。
「いい加減にしろ!リョーマ!」
手塚が本気で抵抗すれば、リョーマを押しのけることは充分可能。
だが手塚は実力行使で跳ね除けることはせず、リョーマの名を呼ぶことで、リョーマの手を
止めることに成功した。
「ごめん、国光さん」
「いきなりはルール違反だ」
「今日はルール違反じゃないし」
「どういうことだ?」
「だって、今日はYESでしょ?」
「YES?」
「だ〜か〜ら〜。そのYES-NOまくら」
「この枕のことか?」
「そう。そのまくらね、新婚さん仕様だから」
「・・・・・・・・・」
「今夜はOKって時はYESが上、ダメって時はNOが上。意味わかるよね?」
「・・・・・わかった」
途端にYESが上になった枕をNOにひっくり返そうとしている手塚の手をリョーマは急いで止める。
「ダメだよ、途中で変更はなしだから」
「そうなのか?」
「そう」
「なら仕方ないな。手加減はしてくれ」
「善処します・・・」

笑みを含みつつも真剣な瞳を向け、近づいてくるリョーマに、手塚はゆっくりと瞼を閉じた。






<あとがき>
会社勤務中にオフ●ースのYES-NOを鼻歌で歌ってて、
珍しくSSの神様がやってきました(その割に、この出来ですか?)
今回の設定は、すでに出来あがっちゃってるリョ塚設定で。

「YES-NOまくら」は某TV番組「新婚さん、いらっしゃ●!」(ローカルなのかな?)
のゲームで必ず入っている賞品です。
大人になってから、YES-NOまくらの本来の意味が判りました(笑)
そんなの、リョマたんが知ってるわけないよ!というツッコミはなしで(笑)。
そして、まんまとくにみちゅさん、リョマたんに騙されてます!
いや、その気になってしまったリョマたんには、くにみちゅさんに途中でダメといわれても、
それは無理ということで。



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