TREASURE SS
目を開けると、そこに広がっていたのは見たこともない部屋だった。
「…なんだ、ここは…」 一言で言えば、アラビアンテイスト、というのだろうか。 昔見た、アラジンと魔法のランプの絵本の中の宮殿のような部屋で。 俺が横たえられてたベッドには、薄い絹のような生地の紗がかけられていて、その向こうに大きな窓が見え、さらにその向こうは夜なのか暗かった。 どうやら室内にはランプの明かりしかないらしく薄暗い。 「…一体…どうしてこんなところに…?」 確か、俺は授業を終えて今日の部活に出ようとして部室に行ったはずではなかったか…? とりあえず起き上がろうとして、じくり、と頭が痛むのに気がついた。 「…?なんだ…?」 後頭部が痛い。 どこかにぶつけでもしたのだろうか? 疑問に思いつつも、頭痛に障らないようにゆっくりと起き上がりベッドを降りる。 傍に丁寧に置いてあった眼鏡を取ると身につけてから紗のカーテンをかきわけ、長い毛の豪華な絨毯の上に足を降ろすとますます豪華な部屋の内装が目に飛び込んできて、チカチカしそうだった。 「……一歩間違えば、趣味が悪いぞ…これは」 純和風の家に育ったせいだろう。 華美に装飾された部屋は、どうしても落ち着かない。 誰もいない部屋の中、裸足で窓辺に近付くと窓からバルコニーに出れるようになっている。 鍵は閉まっていないらしい。 少し力を入れて押すとキィと微かな音を立てて窓が開いた。 夜風は意外な程冷たく、一瞬肩が震える。 そういえば、確か部活のために着替えたはずだったのに俺は何故か絹のパジャマをまとっているだけだ。 月明かりしかない状態で外をみれば、予想通りというか…、視界一面に砂漠が広がっていた。 どうして日本の東京に居たはずの俺がここに居るのかは全くわからないが、ここが日本でないことくらいはわかる。 「…あ、起きたんだ?」 砂の大地を見て呆然としてた俺は、バルコニーの暗がりに誰かいることに初めて気がついたのだ。 「歩いて大丈夫なの…?」 「お前は……?」 足音もなく近付いてくる人物の姿が徐々に月明かりに照らされていく。 俺よりもかなり身長の低いどこか見覚えのあるそのシルエットに、まさか、と思った時だ。 「お前…、リョーマ…!?」 暗がりから明るい場所へやってきた人物は俺の良く知る少年で。 「いきなり呼び捨てなんて…、熱烈だね」 「何を言ってる!?しかもなんて格好してるんだ…!?」 リョーマはそれこそ絵本の中の人物のような衣装を纏っていた。 裸の上半身に小さい袖なしの上着だけを纏い、下半身にはすそが膨らんだ白い布のズボンをはいていて、足は俺と同じで裸足だ。 そう…まるでアラジンと魔法のランプのアラジンだ…。 「ランプの精に攫ってきてもらったんだ…、どうしても、貴方に会いたくて」 「…ランプの精…!?何を言ってる!?ここはどこだ!?」 訳のわからないことをいいながら、リョーマは近付いてくる。 挑むように見上げてくるアーモンド形の目や、癖のある黒い髪も、生意気な口許も。 俺の知るリョーマのものであるはずなのに、言ってることが全然理解できない。 「会いたかったよ…国光さん」 「お…おい!?」 「いつもいつも練習練習…たまに時間が空いたかと思ったら生徒会…、俺、我慢ばっかりだよ…」 「リョーマ…?」 この世界観に相応しくない単語の羅列に、ますます俺の頭は混乱する。 「…こうでもしないと…貴方と二人きりになれないから…」 「だから、ランプの精…?」 確かに、ここ最近、生徒会の仕事が忙しかったことは認める。 それに、練習も大会を前にして密度が増していたことは確かだ。 おまけに昼も夜も、大石や竜崎先生とのミーティングがありリョーマ一人の為に時間を割くのは難しかった。 「そうだよ。ランプの精に頼んで、この宮殿を用意して、貴方を連れてきた」 「……それを信じろと…?」 「ここには他に誰もいないよ…、やっと二人きりだ」 「……そう…みたいだな…」 確かに。 俺達以外の人間の気配は無いが…。 周りを見回したところで、俺に抱きついていたリョーマの手に力がこもる。 「国光さん…、こっち、むいて」 「なんだ…?」 見下ろすと、俺を見上げたリョーマが頬に手を伸ばしてきた。 「…ランプの精、三つ目のお願い。俺の背、高くして」 どこかに向けてリョーマが呟いたとたん、だった。 突然、リョーマの体がぐんぐんと成長し、一気に俺を見下ろすほどの身長になった。 「な…!」 驚いている俺を見下ろす顔は、確かにリョーマの面影はあっても確実に大人の男の顔で。 「…好きだよ。国光さん」 聞きなれない低い声で囁いた後、唇が塞がれた。 …待て。 そんなはず、無いだろう!? これは、絶対夢だ。夢に違いない!!! 違うだろう。 忙しいかったし、確かに会いたいとは思ってた。 お前が寂しがっていたのも知っている。(というより大石から散々聞かされていたしな…拗ねている様子は…) だが、違うだろう? 俺の会いたいのは、リョーマであって…。 突然大人になったリョーマじゃない。 そんな、俺を見下ろしてキスしてくる大人の男じゃなくて…。 「…ちょ…う!部長!!」 「おい、越前、安静にしとけって言ってんだろうが?」 耳元が煩くて、俺は目を開けた。 「…うる…さい…」 「あ、部長…!部長が目を開けた…!」 「こら、越前、離れて…、手塚、大丈夫か…?」 目を開けて一番に見えたのは、涙目になったリョーマの顔だった。 どうやら俺の顔を覗き込んでいるらしい。 「そう…俺の会いたいのは…こっちだ」 手を伸ばして、その涙目のリョーマの顔に触れる。 そうそう。 リョーマはこれでいい。 突然大人になんかならなくていい。 「は…?」 「手塚…!まさか打ち所が…!?」 周りで大騒ぎが始まっていたが、俺はそれには構わず目を点にしているリョーマの頭を撫で続けた。 ランプの精なんかの力に頼らなくても。 俺はお前の顔が見れるだけでいい。 宮殿も、二人だけの世界も必要ない。 町田あきこ様より 華麟のお誕生日プレゼントとして アラブでリョ塚な素敵SSをいただきました〜♪ 素敵リョ塚をありがとうございます〜♪ 華麟のアラブ好きをすっごい理解していただいてます(笑) ありがとうございます〜!! |
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